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東京高等裁判所 昭和24年(新を)531号 判決

被告人

石野広三郎

主文

原判決を破棄する。

本件を浦和簡易裁判所に移送する。

理由

控訴趣意第一点について。

原判決は罪となるべき事実として所論の如き(1)乃至(4)の各窃盗の事実を認定しているのであるが、本件公訴事実は起訴状によつて明らかなように、単に「被告人は吉川朝信と共謀の上、昭和二十三年九月下旬頃から同年十一月三日頃迄の間において前後四回に亘り川口市栄町一丁目二十四番地山崎縫蔵方外三ケ所で同人等所有の自転車タイヤー同チューブ、中古リヤカー等を窃取したものである」とあるにすぎないから、右原判示中判示第四の山崎縫蔵所有の自転車タイヤー等を窃取したとの事実を除き其余の事実認定については同一性の限度において右公訴事実と如何ように一致するものであるか諒解するに困難である。尤も、原審第一回公判調書には検察官は起訴状を朗読した上公訴事実中山崎縫蔵方外三個所とある部分を補足する旨を告げ、その日時、場所、被害者氏名、及びその物件等を詳述したとの単なる抽象的な記載はあるが、右公訴事実につき訴因の追加、又は変更をして果して如何なる事実が具体的に特定明示されて審判を要求したのであるか、その要旨の記載なく、その他記録を精査するも検察官の提出した被害始末書、犯罪届書類の証拠によつて単にこれを推測したるものがあるだけで、毫もこれを確認し得るものがない。果して然らば原審は公訴事実として特定されない事実を審判したもの、即ち、刑事訴訟法第三百七十八条第三号後段に所謂審判の請求を受けない事件について判決をしたといふ違法があるに帰するから、この点において所論は理由がある。

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